大小島真木展「森臓」”To get entangled in a different way than before”

身体の中にある森と、

身体の外にある心臓。

夜という名の太陽と、

朝という名の新月。

全てはもつれあい、絡まりあいながら、明滅を繰り返している。

簡単にはほどけない。ほどくことなんてできない。

その喜ばしき“重力”が、私たちの足を大地へと結び止める。

その望ましき“しがらみ”が、私たちの事情を複雑にする。

内と外を交差させながら渦を巻く、生命のとぐろ。

音もなく鼓動する“森臓”のリズム。

——

大小島真木展「森臓」開催にあたって  ツォモリリ文庫 アートディレクター おおくにあきこ

 大小島真木が最初に芸術祭で壁画を描いたのは2013年2月。インド、マハラシュトラ州の先住民ワルリ族の村の学校でした(*1)。ワルリ族の村には、鳥や虫、植物の命が溢れ、夜は満点の星が降り、滞在制作をした公立学校には子どもたちのパワーが炸裂していました。

 女子美術大学、大学院在学中から描いてきたいくつもの心臓は、ヒトとは? 命とは? という根本命題の海に身を投じる覚悟の表明かもしれません。ワルリ族の村で制作した壁画には、生き物、骨、目に見えないけれどそこに確かに存在する精霊たちが描かれました。

 2014年に北インド・ラダックの2つの学校で壁画を描いた際は(*2)、ヒマラヤの山々と剥き出しの大地からメッセージを受信し、さらに2017年、アニエス・ベーが主宰する海洋調査船タラ号に二ヶ月半乗船したときには白化した鯨の亡骸と遭遇(*3)。無数の鳥、鮫を含む魚たちが鯨を食べ尽くしているシーンをその目に刻みました。その後、瀬戸内海の粟島で長期滞在制作を経験する。先住民の村、ヒマラヤ、航海、島暮らしの経験は、すべて生き物が生を終え、地球から授かった命を地球に戻す「ことわり」をその身体の深い部分に取り込むイニシエーションであり、大小島は創作しながら、創作の鉱脈を大きく広げていきました。

 その身に取り込んだものを、美術家としてどのように吐き出すのか。

 地球上の哺乳生物の総重量に占める人間と家畜の割合が、1000年前にはわずか2%だったものが、90%にまで達してしまっているという今の地球の上で。

 未曾有の新型ウィルス拡大禍が続く現在の人々へ。

 今回、大小島は、私たちNPO法人ウォールアートプロジェクトがディレクションする「ウォールアートフェスティバルふくしま in 猪苗代2021」(11月6日、7日公開)の招聘作家として、猪苗代の最奥・吾妻地区の学校を舞台に壁画を滞在制作することが決まっています。壁画制作が地域内で完結する閉じたものでなく、広く開放されていくことを目的に、私たちが運営する東京・仙川のツォモリリ文庫廊内の壁で、壁画とインスタレーションを同時制作・展示します。

 展示のインスタレーションには、大小島が新たに取り組み始めている陶器の立体が登場します。

 それはとても小さな陶器たちです。すっかり親しんできた筆で描くことだけではなく、火と土の力を得て、作家本人の想像を超えた偶然性を愉しもう、というわくわくする試みです。

 立体やインスタレーションは展示と同時に販売もいたします。大小島の鬱蒼とした命の森を彷徨い、ヒトと神羅万象、大地、天体の境界を探索する、そんな時間をツォモリリ文庫でゆったりと過ごしていただけたらと思います。

 ツォモリリ文庫は、美術展示だけに終わらない、温かな食卓と読書、纏う行為など、生きる上で大切なさまざまな行為を自由自在にスクランブルに横断できる場作りを目指し、生きるうえで欠かせないこと、大切にしたいことを皆さまと考えていきたいと思っています。

2021年8月

*1「ウォールアートフェスティバル(WAF) in ワルリ2013」 NPO法人ウォールアートプロジェクト主催。国際交流基金共催。他の招聘作家に遠藤一郎、鈴木ヒラク、B.M.Kamath 、Gauli Gill。大小島真木は、2011年と2012年のWAFにボランティア参加し、この年初めて招聘作家として壁画を描いた。

*2「アースアートプロエジェクト in ラダック2014」 NPO法人ウォールアートプロジェクト主催。他の招聘作家にNobina Gupta(インド)、樅山智子(作曲家)、奥間勝也(映像作家)、藤井龍(美術家)、行橋智彦(服飾作家)。

*3 2017年アニエス・ベーの海洋調査船タラ号への乗船経験から6体の鯨のオブジェを「鯨の目シリーズ」として制作。パリや日本で発表。HIGASHI IKEBUKURO STUDIOでの展示の際に行われたトークイベントは文芸雑誌「たぐい」vol.3に収録されており、本テキストの参考とさせていただいた。
—–

大小島真木展「森臓(しんぞう)」
開催会期 2021年10月8日(金)〜11月22日(月)
時間:金・土・日11:00-18:00 
       月12:00-18:00
定休日:火・水・木
会場:ツォモリリ文庫 調布市仙川町1-25-4 シティハウス仙川1階 (京王線仙川駅より徒歩3分)
電話:03-6338-1469
主催:ツォモリリ文庫 (http://tsomoriribunko.com)
助成:文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業

会期中のイベントとアートワークショップ
10月9日(土)〜11日(月) 壁画公開制作(ツォモリリ文庫内 Wall Art Wallにて)
10月16日(土) オープニングイベント
11月13日(土) Wall Art Festival ふくしま in 猪苗代 2021 報告会

大小島真木プロフィール
1987年東京生まれ。2011年女子美術大学大学院修士課程修了。描くことを通じて、鳥や森、菌、鉱物、猿など異なるものたちの環世界を、自身に内在化し物語ることを追求している。作品とは、思考を少しずらしたり、視野を少し変えてみせたりすることの出来る“装置”のようなものであると考え、日々制作中。ペインティング、壁画、造形、映像などを使って表現活動を行う。
2009年トーキョーワンダーウォール賞、2014年VOCA奨励賞受賞。2017年にはアニエス・ベー主宰による海洋調査船タラ号のプロジェクトに参加。主な個展に「骨、身体の中の固形の海。- 植物が石化する。」(HARUKAITO、東京)、「 鯨の目 」(パリ・アクアリウム、フランス、 2019)「鳥よ、僕の骨で大地の歌を鳴らして」(第一生命ギャラリー、東京、2015)など。公開制作「万物の眠り、大地の血管」(府中市美術館、2018)。グループ展に、「Re construction 再構築」(2020年、練馬区立美術館)、「いのち耕す場所」(青森県立美術館,2019)瀬戸内国際芸術祭・粟島に参加。また、インド西部に暮らす先住民ワルリ族の村、インド最北部ラダックの標高5000mの学校を舞台にした芸術祭Wall Art Festival(2013、14、16) / Earth Art Project(2014)に参加。滞在制作を通し、大きな注目を集めた。 

ウェブサイト:http://www.ohkojima.com