『SEED』読書会で語られたこと
ワィエダ兄弟が作画を務めた仕掛け絵本「SEED」(タラブックス刊)。手漉きの紙に手印刷、手製本というハンドメイドの本作りで知られるタラブックスのラインナップの中でも、「SEED」は異彩を放つ。既存の本の枠組みを超えた仕掛けを通じて、「種」について語りかけてくる。

その内容を「読む」経験を一歩深め、中心部を紐解き、核心に迫ろうと、作画のワィエダ兄弟とオンラインでつながり、読書会を開催した。「SEED」の中でも、特にワルリ族の暮らしの中での種の存在について語られている部分にフォーカスを当てた。

『SEED WOMEN (種と女性たち)』の章から種を守り継いでいる存在としてワルリ族が登場してくる。
ワルリ族の女性たちが、種を保存する段で、家の土壁に埋め込む話が出てくる。例えばキュウリを食べた後、その種をそのままにしておくと、虫やネズミに食べられてしまう。だから、ターメリックをまぶして埋め込むのだそうだ。そうすることで防虫と保存に役に立つ。
絵本では、石臼の上に三人の女神、カンサリ、ダルタリ、ガオタリが描かれている。彼らワルリ画家は、描きはじめに、命の種を携えるカンサリに祈りを捧げる習慣を持つ。結婚式の際に神様を迎える神殿を家の壁に描くことから始まった本来のワルリ画の白は米粉だからだ。
先祖の霊や、精霊を地上に迎え入れる収穫祭「カラ・チャ・デヴ」の儀式では、稲藁を燃やした灰の上に、新米を円状に盛り上げ、そのなかでシャーマンが祈りを行う。参加者から「円にするのには意味があるのですか」と質問があった。「神様や精霊を迎える場にふさわしいように、米を美しく盛り上げ、デコレーションします。円であることで儀式中に動き回るスペースができること、周りに人が集まりやすい、などの理由があります。儀式に用いられる植物や道具にも一つ一つ意味があって、この年齢になって子供の時から見慣れているそれらに込められているものがわかるようになって、より知っていきたい欲求が湧いています」とMayur。
そもそも、とMayurは続けた。
「『SEED』は、ワルリ族は種をこう扱っています、ということを『教える』ためのものではありません。種について科学的な側面を伝える本でも、育て方の手引書でもありません。ワルリ族が種とどう付き合ってきたのかを伝えることで、この本を手に取った一人一人が、種と向き合う、真剣に考えるきっかけになってほしいと思っています。
ヴァンダナ・シヴァ博士が語った言葉が強く印象に残っています。
武器をコントロールするものが、軍隊を掌握する。
食べ物をコントロールするものが、社会を掌握する。
種をコントロールするものが、地球の命を掌握する。
現代では、種の特許問題があり、遺伝子操作の技術も一般的になりつつあります。『SEED』の前半で語られているように、種は自然界の中で、風、水、虫や鳥、人間までも利用して、さまざまなところへ拡散し、命を広げるための工夫を凝らしてきました。自然界にはすでに命が広がっていく循環が存在しています。ですが、人間がこれ以上、コントロールしようとすることで、そのような自然の流れを妨げ、思いをよらない影響が出てくる可能性があります。種にまつわる議論が必要とされる時が間も無くやってくると思います。その時、一人一人が種について自分の意見や立場をもっていることで、対話が広がり、いのちの源である種を守っていける未来につながっていくのではと思っています。
『SEED』は文字通り種です。この本を持つ皆さんの手が土。そしてこのような対話が水。この種がどう芽吹くかを楽しみにしています。」
Tusharは、「現代に生きる私たちは、仕事、家族、何かにつけて忙しくしています。その忙しさを理由に、自分の振る舞いが周囲の環境にどのような影響を与えるのか、あまり考えなくなっています。もし、私の行動が何かに負の影響を与えてしまうと、その何かもまた別のものに影響を及ぼします。『SEED』では、種を中心に、さまざまな物事の関係性が描かれています。私にとって種は、自分と他の存在との関係性に目を向けることを促してくれる存在です」と話した。
ウォールアートプロジェクトがワルリ族の文化に関わるようになって、12年ほど。私はそのうち5年間を彼らと同じ村でコーディネーターとして過ごしていた。ワルリ画は、読む絵画だと、ワィエダ兄弟は折に触れて伝えている。ピクトグラムのように、幾何学模様の組み合わせによって描かれた一つ一つが意味を持つ。ワルリ語は持つものの、ワルリ文字を持たない彼らは、絵によって神話や暮らし、儀式の様子を語ってきた。「ワルリ画には描いた人の意図が込められています。『読む』つもりで向き合うことで、絵の世界が立体的になるかもしれません」と二人は話し、読書会を終えた。
2025年10月、今年もワィエダ兄弟が来日する。彼らの個展にぜひ足を運んでほしい。
*SEEDは、ツォモリリ文庫にて取扱中です。