市橋晴菜『海の子供』展連続インタビューvol.2 文:おぐりちはや

海の子どもインタビュー2 ツォモリリ文庫は今、画家、市橋晴菜が描く海にまつわる絵画たちに彩られています。 その数はおよそ68点にも及び、絵に顔を近づけてみると、自信に満ちた力強い筆のタッチが見えてきます。

ふと気がつけば、彼女の描いた海の中へと引き込まれており、そこには大小さまざまな魚や見たことのない生き物たちが自由に泳ぎ回って、可愛かったり、少し怖かったりして様々な出会いを楽しむことができました。 中には、どこか食欲をそそられる美味しそうなお魚くんたちもいます。

二度目にあたる今回のインタビューでは、彼女が実際に出会ったことで描かれた、そんなお魚くんたちについて話してくれました。

『アジ』と『カサゴ』

ーー市橋さんの絵は、画面中に不思議な生き物たちが隙間なくいて、空間含めとても抽象的。というイメージを持っていました。 ですが今回は背景があって、一つの生き物自体にフォーカスされたものも多いですね。

学生の時にはそういう絵を描いたりもしたけど、今回は壁画を描くからそれに対して大きくはない作品を点在させよう、一体をフューチャーしたものも描いてみよう、と。この魚の絵に赤を塗った時に、感覚的にもうそのままシンプルにバチっと魚一匹を書こうと思ったんですね。

ーー都会に染まりきってしまった自分の目には、他の絵に描かれている精霊?不思議な生き物たちは見えないかもしれないけど、この魚は自分の目にも見えて、触る事も出来そうって思えますね。 結構しっかりと魚そのものの感じが出てますよね?

出てますねえ。この絵に関してはもう自分の魚好きな部分が出ちゃいましたねえ、もう実物の魚を意識して描いちゃってるから。 この絵は実際に佐渡島で釣ったアジを描いたんです。

ーなんと、実際に釣りをして出会ったお魚でしたか、ということはこの絵のモデルは実在しているんですね。確かに釣り糸のようなものが見えます。その出会いは最近ですか?

春に釣りましたね。春は生命が立ち上がっていく季節なんですけど、このアジが釣れた浜は越冬して春まで生き残った強いアジがいる所で、だからものすごくデカイんです。 それをその場で早速、クーラーボックスの上でさばきまして、その後一夜干しにしていただきました。いやあ、すごかったなあ〜。

ーーなかなか楽しそうだし、美味しそうですね。ちなみにアジの左右にちっちゃい神様もいませんか?

いる。あれは魚振を伝える神様ですね。

ーーぎょしん? 釣り竿に伝わる振動のことです。

釣りの時、魚に対して一対一で糸で繋がっているんだっていうのが、すごい生命を感じさせてくれるんです。引き上げようとする人類と逃げようとする魚類の戦いなんですよね。

ーーそこには神様の立合いがあるんですね。 では、こちらの赤い魚も、釣ったんですか?

カサゴですね。カサゴみたいな根魚がすごい好きなんです。

ーーネザカナ?なんでしょうそれ、すみません魚リテラシーが低くて。

根魚ってアイナメみたいに海底とかに張り付いている魚です。最近東京湾で船釣りでアジの五目釣りをした時に海底にカサゴがいると聞いて。アジ用に仕掛けを準備していたのですが、本当は良くないのですが、よっちゃんイカを餌にしてついつい根魚がいるエリアに糸を垂らした。そしたらチイちゃいカサゴが釣れまして そいつがまあ立派にピシいいっと俺は生きる〜って、ウチの手の中で動いてて、その瞬間がものすごく綺麗で描いた絵なんです。 これからこの小さいカサゴはたくましく生きていくのだなあって感じました。その力ってすごい大事だなあと思って、それが自分の絵の源にもなっている部分なので。 もう絵のテーマにいただくしかないと思って、生きるっていう力を描きました。

ーー東京湾の黒々とした海にそんな元気な子がいるんですね。その釣り体験とかって今回の展示のために行ってたりするんですか?

もともと海が好きだから、その海が好きっていう話から始まって今回の展示になっているので、展示のためだけではないです。 今ウチの釣りにおける、最終目標は泳いでいる魚を銛で突いて食べることなので。

ーー素晴らしいですね。実は自分もご飯は自分でとってくるスタイルに今すごい憧れてて、罠猟師の免許なんか調べちゃったりしてるんですよ。

あれは獣に匂いを悟られないために真水で体や罠を洗ったりするらしいですよ。ジビエはウチの友達も今追いかけているから、魚と物々交換して行こうって思ってる。

ーー自分もその市場に混ぜてくださいよ。市橋さんの釣った魚も今度是非食べたいです。なんだかアジの話をしていたあたりから、無性に魚が食べたいんです今。

今度直接釣りに行っちゃうのもアリですよ!釣りはねえ、奥ゆかしいんです、最近調子はどうですかあ?ってそっとね。

ーーえ?誰にですか?

魚に(笑)

ーー楽しいですねその感覚。釣り糸を垂らすことが、海の魚にお便りを送るような感じなのでしょうか?

海の中を探る感じですね。それに対して銛で突くのはもっと直接的ですね。すごいやりたい。

ーー市橋さんは、なんていうかすごい原始的ですよね、あらゆる動機が。いつか洞窟にでっかく絵を描きたいって言ってましたね。原始人の大先輩の方々とやりたいことが同じですね。

インタビュー2回目『アジ』と『カサゴ』はここまでです。 次回の記事はまた別作品にフォーカスし、8月5日まで開催中の海のこども展を盛り上げていきたいと思います。