アーティスト市橋晴菜の絵画に住む生き物たちの生と死【ツォモリリ文庫一坪ギャラリー】

どうもこんにちは、ツォモリリ文庫広報担当のおぐりです。
ツォモリリ文庫は今のところ週休3日ですが、ショウウィンドウから覗けるギャラリースペース、一坪ギャラリーは年中無休でご覧になれます。

アーティスト、市橋晴菜の『持ち運べる絵画展』

2018年の夏、現在。
ツォモリリ文庫が面しているグレーに統一された通りの中に、市橋晴菜さんの極彩色な作品が、バイタリティ溢れた存在感を放っています。


よくよく見ていると、何やら目と口のある生き物たちが住みついているのがわかります。この生き物たち…一体何を考えているのでしょう?
もしかしたらですが、市橋さんはこの生き物たちとどこかで会ったことが、あるのかもしれません。

尽きない疑問と興味に、市橋さんは今回どしどし答えてくれるそうです。
とにかくどこにでも描きたくて仕方がない、市橋さん。

大学の卒業制作では教室全体をただひとり独壇場で彩ったといいます。

一般参加で訪れたはずのアートフェスティバルで、ひとりでに作品を描き出し展示まで漕ぎ着けた話も聞きました。

そんな彼女の手からどしどし具現化されている不思議なモチーフたちの秘密に迫ってみたいと思います。

 

市橋晴菜インタビュー


-とにかくどこでも描きたい。描いていたい、で知られる市橋さんですが、その衝動はいつ頃からあるんですか?

絵は幼稚園小学校の頃からずっと描いてました。高校からは美術部で、その時から巨大なものに描いてみたい欲求がずっとあって、昔から変わらずです。
でも、ただひたすら描いていただけでまとまりが無くて、そういうものを公開する勇気もなく、展示はしていなかったんです。
最後に卒制がやってきた時、まとまらなくても今までやってきたことをただ思いっきり出してしまおうと決めて、結果教室一部屋使って絵を描くことになりました。

-幼稚園の頃から変わらない勢いなんですね。
この生き物たちとはその頃からの付き合いですか?

この生き物たちシリーズは昔からずっと描き続けてきました。
植物とか鳥をよくモチーフにしていました。
その頃からのエネルギーを今だからこそ出してやろうと、教室中に描いているうちに、生き物の命が巡っていく様子を表現したいと思うようなったんです。

-まとまりは無くても良いやと思い描き始めたけど、結果的にテーマが見えてきたのはおもしろいですね!命を巡らせているこの生き物たちは市橋さんがどこかで見たり、会ったりしたことがあるのですか?

見たり会ったりしています。
命が巡っていく様子を描こうと思ったのも、生き物の観察をしていたのがきっかけでした。
例えばこの生き物も顕微鏡でクマムシを見た事がきっかけで、それ以来描き続けています。

—クマムシきっかけですか。なかなか見ることは無さそうな生き物ですが、ばっちり出会っているんですね。

よくみるとスケッチブックにも沢山登場していますね。このモチーフは“始まっている状態”を表現していて、自分の中でも重要な生き物のひとつなんです。

-始まっている状態…ですか…?

生き物が死んでいくと、形が失われていって、いそうでいないうような別の生き物に変容していくんですね。
こんな形だったっけな?っていう形に溶けていくんです。

そしてだんだんと真っ白くてまあるい魂のようなものになっていきます。
それに再び足が生えて、別の新しい生き物に形どられていく。
そんな様子を描いてるんです。

-と言うことは、このクマムシは何にでもなれるんですね。

何にでもなれる状態です。
卒制ではこの真っ白いクマムシが変容して色んな生き物になり、そしてまた生を全うし終えていくというサイクルを教室いっぱいに描きました。

-生き物の輪廻ってそういうことなんですね。

輪廻のサイクルを一枚の絵の中で物語のように描いている。

-そのスタートといいますか魂に近い状態がクマムシなんでしょうか。その存在をクマムシと呼んでるのはなんだか変わってますね。

クマムシは凄く小さくて、乾眠する(乾いて仮死となり、湿り気を帯びると生き返る状態)と物凄く丈夫になる生き物なんですけど、まあ顕微鏡で観察する機会があって、その時にインスピレーションを受けたからそう呼んでるんです。

あらゆる生き物を抽象的にしていくとこんなシンプルなものなんじゃないかと、そう思ったんです。
他にも絵に描かれている生き物たちは、実際に見た動物たちからのインスピレーションで描いてます。

-この、顔が2つあるこの子もですか?

そうです。それはキンシコウという猿ですね。
動物園で見ました。
この「白い舟」という絵は山の神様というか精霊のような存在が白い舟をこさえて、生き物たちをのせて未来に運んでいるんです。

-これが神さまなんですね。
あれ?舟に乗っていないのもいますね。
なんですかこの方々は?ちょっと禍々しいですよ。
この方々もやっぱり実際にいるんでしょうか?

います!それは、鬼ですね。
死のイメージを持つ精霊のようなもので、生き物たちが生きていると同時に常にそこには死が存在していることを伝えたいんです。

-改めて見ると、骨のようなモチーフや眠っているような、命を終えているような生き物たちが散りばめられていますね。

でも命が終わったのではなく、この絵の物語では、別の形になる前の状態、なのかもしれません。

-市橋さんの絵で個人的にとっても好きな所が、たくさんの色が使われていて、見ていると賑やかな気持ちになる所です。

この絵は色が多い方ですね。
色に関しては赤色を生命の象徴的な色としてよく使います。
あとは夕闇の紺色と青色。赤と青の2色はたくさん使います。
それと、絵の具として土を使う事も多いです。
土は命が行き着く所なので、生き物たちのエネルギーの蓄積があると思ってるので、それを絵にのせていくんです。
土は普通の顔料絵の具と違って、言うことを聞いてくれないのがいいんです。
「お前そうなるのかーい?」ってなるので、絵にちょうどいい荒さが生まれます。

-最後の質問です。市橋さんの絵に住んでいる生き物たちはなにを考えているのでしょうか?
目が点のような表情の無い感じが、考えが読めずに気になってしまいました。

目が点の生き物はシンプルにただ生きているんです。
目が線の生き物もいて、これは穏やかに眠っています。
もう一つ半眼の黒目をした生き物は、遠くまで見渡しているんです。
生き物たちはなにかを考えているというよりは、遠くを見つめているのかと思います。

-遠くを見ている…。それは個人的には一番難しいやつですね。
ごちゃごちゃと雑念に囚われまくりの毎日なので、この生き物たちの目を見習いたいなと思いました。ちなみに市橋さんは…

もっともっと大きな所で超でかい絵を描いてみたいと思ってます。だから私にスペースをください!!
じっくりとみてもらう大きな絵を描きます。

 

個展の期間、場所

いかがでしたでしょうか?
アーティスト市橋晴菜の作品、絵画『白い舟』と、ペイントが施されたカバン『持ち運べる絵画』は 2018年8月12日 までご覧になれます。
京王線仙川駅、徒歩3分、ツォモリリ文庫にてお待ちしております。

この記事を書いたライター

おぐりちはや
調査漫画家探偵を自称する漫画家、ライター
にしてツォモリリ文庫のビジュアル、広報担当スタッフ。
漫画とブログ記事を交配させたような記事を垂れ流し続けるブログサイト
おぐりちはやの珍chings of journeyを運営中

2018-08-06 | Posted in 過去のイベント